!警告!

この作品は年齢制限がかかっております。
15歳未満の方はお戻りください。
残虐的な表現、グロテスクな表現がございますのでそういうものが苦手な方もお戻りください。
もし15歳未満で読もうとされている方に申し上げておきます。
警告を無視して進んだ場合、私は苦情を一切受け付けません。
ご了承ください。
ご理解いただけた方のみ、お進みください。







悪魔のマザーグース






   さあ、必要なものを言ってみな

 灰色の背広を見た男が薄暗い小道を一心不乱に歩いていく。小道にいるのは背広の男とその影だけ。他には遊んでいる子供も、屋根に寝転んでいる猫もいない。この道に沿って並ぶ家はどれも寂れて、人の住んでいる気配がない。
 男が目的の物を見つけて、何も感情を映し出していなかった顔を醜くゆがんだ笑顔に変えた。

   赤い血の看板目指し

 男の視線の先にあるのは血のように真っ赤な看板。薄暗い小道に不釣合いな看板には一言〈Dark〉と書かれていた。
「ここか……」

   闇への扉を押し開けろ

 男は何の躊躇もなく黒い扉に手を掛け、内側へと押した。
 中からはひんやりとした空気と、クラシックともジャズともつかない奇妙な音楽があふれ出してきた。
 男は店の中へ足を踏み入れると、後ろ手に扉を閉めた。途端に店の中を闇が支配する。
 ポッとマッチの炎が揺らめき、一本のロウソクに灯される。そのロウソクの光に導かれるように、男は店の奥へと足を進めた。
「お客さんは人間かい?」
 どこからともなく声が聞こえてきて、男は足を止めた。
 ロウソクが動き、青白い顔を照らし出す。死人のような顔には嘲笑が浮かんでいた。
 男はどきりとして一歩後退した。それほどに闇に浮かんだ顔は〈生〉から遠ざかっていた。
「人間ならこの程度の光じゃ見えないだろう?ちょっと待ってな」
 ぱちんと指を弾く音が聞こえ、そこら中のロウソクに火がともる。その光でやっと男にも店主の姿が見えた。伸ばしっぱなしの黒髪、底の見えない暗黒の瞳。生気を感じられない顔よりも、この店主には普通と違うものがあった。指だ。店主の指は人の1.5倍ほど長い。
「〈Dark〉へようこそ。お望みのものを言ってみな」
「お前…何者だ…?」
 男が声を搾り出すようにして言った。店主はさも意外そうな顔をする。
「この店を探し出すぐらいだから知ってると思ったよ。ご覧の通り人間じゃない。悪魔さ」
「悪魔…?」
「何でもそろう悪魔の店〈Dark〉そう教えられなかったかな?まあいい。お客さんがどう思ってもやることは変わらない。お望みは?」
 口元に笑みを浮かべて店主が言った。
 炎が揺らめき男の顔を照らし出した。瞳は僅かに揺れ、躊躇していることがありありと表れていた。
「心配しなさるな。ここまでたどり着く客はどれも欲にまみれたものばかり。お客さんもドロドロと欲にまみれているのが見える。媚薬でも何でも用意いたしましょう」
 歌うような店主の様子に男は覚悟を決めた。にごった瞳はただ店主を見つめている。
「妻を…妻を殺してくれ!!」
「お客さん、ここは何でも屋じゃない。特別にやってやらないこともないが、お客さん1人じゃ払いきれないよ。

   対価はあなたの体の一部

 お客さんの体と魂をもらっても対価には足りないね」
「何でも用意するんじゃないのか!?」
 切羽詰まった様子で男が店主に掴みかかった。胸倉を掴まれても店主は顔色を変えない。
「用意しましょう。殺すための道具をね。さて、丈夫なロープがいいかい?それとも人間が作り出した銃?ライフル?剣やナイフというのもあるね」
「自然死に見せかけたい。絶対に俺に疑いがかからないように」
 店主が笑った。欲にまみれた男を快さそうに見ている。
「それならば、毒かね」
「毒?それは一体どんな…」
 店主が歩き出した。光の届かないところに行ったと思ったら、あっという間に戻ってきた。その手には白い粉の入った小瓶がある。
「こいつさ」
 店主が男の鼻先に瓶を突き出した。衝撃で粉が揺れている。
「まだ人間どもの技術じゃ検出できない。効果は心臓麻痺にそっくりだ。食べ物や飲み物に混ぜても変わった味はしないから、誰も気づきはしない」
 男の顔がゆがんだ笑みに変わり、瞳がロウソクの火をうけてギラギラと輝いた。求めるように瓶に手を伸ばすが、店主は素早く手を引く。
「まだ交渉は成立してないよ。これを渡す代わりにお客さんの体の一部をもらうが、よろしいね?」
「もちろんだ。あいつを殺せるのなら指でも足でも何でもやる。だからそれを…」
「いいだろう。交渉成立だ。体の一部はお客さんが目的を果たしたら、回収に行くよ。それまで体を大事にしな」
 店主が長い指で男の手に瓶を落とした。男は瓶を手にすると一目散に店を出て行った。



   出来ないことはなにもない

 怪しい店の店主が言ったとおりだった。
 心臓が完全に停止した妻を目の前にして男は思った。
 瓶を受け取ってすぐに、妻が飲んでいたコーヒーに毒を盛った。毒の効果はてき面で、妻はコーヒーを疑うことなく一口飲むと眠るように死んだ。
 これなら誰も俺を疑わないだろう。後は死んだ妻のよき夫役に勤しめばいい。周りは皆、何も知らずに俺を妻に先立たれた哀れな夫だと思うんだ。
 こいつが悪いんだ。
 足元で冷たくなっていく妻を恨みのこもった目で見た。
 俺が浮気してるのがわかった時に、離婚だけで満足しないで膨大な慰謝料を要求しやがったこいつが悪い。しかも慰謝料を払わないなら裁判所に持って行くだけだと!?そんなことをされたら今まで築いた地位を棒に振るも同然じゃないか!!
 男は狂ったように笑い出した。
 これでもうこいつに俺の人生を左右されることはない。俺は自由だ。

   必要なものはそろったか
   まだ必要ならこの店の
   赤い血の看板目指し
   闇への扉を押し開けろ


 どこからか歌声が聞こえてきた。驚いた顔で男が周りを見回す。
 リビングから玄関に通じる扉のところに、あの店の店主がいた。明るい室内で見ると、肌の青白さが顕著だ。
「お前、どこから入ってきた!」
「言ったでしょう?私は悪魔。

   出来ないことはなにもない

 人の家に侵入することなんて朝飯前さ」
「何しに来た!」
 店主は長い指の唇に当て、目を細めた。口元には相変わらず笑みが浮かんでいる。
「お客さん、忘れてもらっちゃ困る。目的を達成したら対価を回収しに来るといっただろう?」

   対価はあなたの体の一部

「待て!待ってくれ!他の物じゃいけないのか!?金ならやる!」
「お客さん。ちゃんと契約は守ってもらわないと」
 店主が男の顔に息を吹きかけた。男は指一本動かせなくなる。目蓋はひくつき、目は店主から放せなくなった。
「何を…!?」
「目と耳と口、あと鼻は使えるが、自分の意志で動くことは出来ないよ。体の一部がなくなるのをしっかり、その欲にまみれた頭に焼き付けるといい」
 店主が男の着ているワイシャツを破った。男の胸に手をやり、丁度中央のところで止める。
「お客さん、ここで問題だ。私の指はなぜこんなに長いのでしょうか?」
「しら…知らない……」
「正解は…」
 店主が胸に爪を立て、切り傷を作った。赤い血が滲みだすそこへ、長い指をずぶりと刺し込む。グチャグチャと音を立てながら、赤い塊を胸から抜き出した。
「内臓を取り出すためさ」
 男の胸から取り出したそれは、男の体と無数の管で繋がっており、大きく脈を打っている。
「あ…あぁ……」
 動くことが出来ない男はうめき声を発した。目から熱い涙が伝う。
「これが何だかわかるかい?」
「あ……あぅ…」
「この程度で言葉も話せないとはねぇ。いいさ。教えてやろう。これはお客さんの心臓。この太い管を切ればお客さんはthe END」
「ぁ……や…」
「なんだい?言いたいことがあるのならはっきり言いなよ」
 店主は男の心臓を強く握った。全身を貫くような痛みが男を襲う。血がポタポタとフローリングを汚していく。男のうめき声が叫び声に変わった。
「ああぁぁああ!!やめてくれえぇぇ!!」
「往生際の悪いお客さんだねぇ。『何でもやる』とお客さんは言っただろう?あの毒は私でもなかなか手にすることが出来ない貴重な代物でね。あれの対価は心臓でないと釣り合いが取れないよ」
 クスクスと店主が笑って、男の心臓を舌でなめた。店主の舌と唇が真っ赤に変わる。
「いいね。ドロドロと欲にまみれた味がするよ」
「あぁあ!!こ、この外道め…」
「外道?それを私に言うのは筋違いじゃないかい?私はお客さんを騙したりはしていないよ。客がいなければ商売は成り立たない。〈Dark〉に来るお客さんのほうがよっぽど外道だと思うねぇ」
 店主は右手に付いた血を味わって満足そうに笑う。フローリングは赤い血で模様を描いたようだ。
「さあ、そろそろ回収しようか」
「お、お願いだ…。両足とも持って行っていい。だから…だから殺さないでくれ!!」

   対価はあなたの体の一部
   びた一文まけません


 店主は口でそうつむぐと心臓を先ほどよりも強く握った。手の中の鼓動が早くなる。
「あぁぁぁあああぁぁ!!」
「断末魔というのはどうしてこうも醜いのか。すぐに叫べなくしてやろうかな」
 店主は長い指に備わった鋭い爪で太い4本の血管を一気に切った。血が飛び散り、天井、壁、床、家具、すべてを汚していった。
「ぅぁ……」
 男は叫び声の形のまま、声を出さなくなり、バタンと床に倒れて動かなくなった。
 店主は真っ赤な手で心臓を持って、嘲笑した。店主の纏う服も青白い肌も赤くなっている。店主は血だまりの中に横たわる男を見下ろしながら言った。
「まいどありがとうございました」





   さあ、必要なものを言ってみな

   吸血鬼の血

   猫の魂

   他には何が必要か

   トカゲの尻尾に

   人の皮

   それでは用意いたしましょう

   吸血鬼から血をもらい

   猫の魂お一つ拝借

   トカゲは尻尾をぶった切り

   人は足から皮をむく

   必要な物はそろったか

   まだ必要ならこの店の

   赤い血の看板目指し

   闇への扉を押し開けろ

   私が骨折り探してきましょう

   山に登ってドラゴン探し

   海に潜って人魚を殺す

   出来ないことはなにもない

   すぐさま用意いたしましょう

   対価はあなたの体の一部

   びた一文まけません






 いかがだったでしょうか?これは俺がブログで書いた「悪魔のマザーグース」という詩をもとに作っています。最後のところがその詩ですが。
 書いてる自分でやっちゃったなぁ…と思うような仕上がり。もとになった詩もかなり残酷ですから予想は出来たのですが、なんというか…年齢制限かけるレベルになろうとは…。




2008年3月5日

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