犀雅国陸軍軍事記録
驚異のロシアンルーレット 「これ朝比奈大佐にあげますわ」 廊下で突然三浦軍医に可愛くラッピングされたクッキーをもらった。 「いや、私より他の人にあげた方が喜ばれるんじゃないでしょうか」 「上田上等兵や柳中尉にはもうあげたの。それは大佐用に用意した物ですから遠慮せずに受け取ってください」 大佐にクッキーを押し付けるようにして軍医は立ち去った。 第三部隊の執務室に行くといつも中尉が座っているところには別の人がどっかりと腰を下ろしていた。 「なんで上等兵!?仕事はどうしたんですか!?」 「残念ながら今は休憩時間なんで大佐に怒られる必要はないっすよ」 そう言ってボリボリと何かを口に運んでいる。 「…そのクッキーはもしかしなくても軍医からですか?」 「そうですよ。中尉ももらってたんで食べてみたんすけど、特になんにもないみたいですね」 上等兵はなおもクッキーを食べ続ける。大佐も恐る恐るクッキーに手をつけたがしびれるようなこともないし、卒倒するようなこともない。でも念には念を入れて一つでやめておいた。 「ところで中尉は?」 「一つ食べてから『コーヒーが必要ね』って言って入れに行きました」 そこまで言うと上田上等兵が咳こんだ。すると上等兵の口からなのか小鳥が飛び出してきて、窓の外へ消えた。 「上等兵…突然マジックショーされても反応に困るんですが」 「ゴホッ…別にマジックはやってないっす。違和感があると思ったら小鳥が口から出できて…」 上等兵がしゃべっている途中で大佐がふきだした。何事かと上等兵が手を頭にやるとそこには…ネコ耳が…。 「に、似合わねぇ!!」 大佐が一人で笑い転げている横を通りすぎて、上等兵は鏡を覗いた。 「マジでネコ耳がある…なんで!?」 ふと手を見ると両手の甲は皮膚ではなく、ウロコに覆われていた。 「ちょっと待て!!これ絶対軍医の仕業だろ!!」 軍医という言葉に反応して大佐の笑いが止まった。 「三浦軍医の!?あのクッキーか!?中尉は!?中尉は平気なんでしょうか?」 その答えはすぐに出た。給湯室から現れた中尉はフラフラと歩いてくると大佐にしがみついた。 「中尉!?柳中尉大丈夫ですか!?」 「大丈夫です。でも大佐なんで私の事そんなに信用してくれないんですか?」 そう言うと中尉は大佐にしがみついたまま泣き出した。 「え?ちょ…中尉!!何泣いてるんですか!?」 「泣いてなんかいませんよ!!でも、大佐があまりにも仕事してくれないから泣けてきて…大佐は私が嫌いなんですか?」 中尉は泣き続けていた。 「ちょっと中尉!!仕事しなくてすいません!それよりあんた誰!?」 いつもと違う中尉の行動に大佐は戸惑っていた。とりあえず泣き続ける中尉にハンカチを渡して上等兵に助けを求めた。 「上田…助けろ」 「どうやって!?」 バタンと音をたてて扉が開いた。そこには袋いっぱいのクッキーを持った白衣の悪魔、三浦軍医が立っていた。 「中尉は泣き上戸のクッキーを食べたようですね。結果は上々」 「軍医…第三部隊丸ごと実験台ですか…?」 「実験台じゃありませんよ。これは完成品です。皆さんの反応を見ようと思っておすそわけしましたの」 それを人は実験台と呼ぶのでは…。 「これはいったいなんの薬が入ってるんですか…?」 「ただのパーティーの余興ですよ。食べてみないと効果は分かりませんがロシアンルーレットみたいでしょ?」 全部はずれのロシアンルーレット!? 青くなる大佐と上等兵を見て軍医が微笑んだ。 「安心してください。効果は一日で終わりますから。それにしてもたくさん食べていろんな効果をいっぺんに出すのは非常に面白いわ上等兵」 上等兵の頭のネコ耳が恐怖でたれさがる。中尉に泣きつかれている大佐が何かに気がついたのか息を飲んだ。そして後ろから上等兵に抱きついた。 「大佐!?今さら薬の効果が!?なんで時間差なんですか軍医!?」 「面白そうだったので」 上等兵に抱きついたまま大佐が何かしゃべった。良く聞こえ無くて聞き返したら大佐が上等兵にこう言った。 「パパー、遊んでよー」 「パパ!?なんで俺がパパ!?」 「大佐が食べたのは目の前の人を親だと思い込むクッキーですわ」 中尉が大佐の腕を掴んで泣き続け、大佐が上等兵に抱きついているという状況を見て白衣の悪魔は心底楽しそうに言った。 「大佐!!年齢的に俺が親だとおかしいから!!大佐今29だろ!?俺23だからな!!逆だ!!いや逆でもおかしいけど!!」 「ねぇパパー、たまには遊んでよー」 「大佐すいません。私がふがいないからいつもこんなことになってしまって」 中尉が泣き言を言って、大佐が幼児化して、頭にネコ耳があるが精神はいつも通りな上等兵がパニックを起こしていた。軍医が笑っていると上田上等兵がついにキレた。 「笑ってないでお前も食ってみろ!!」 上等兵がクッキーを軍医に向かって投げるとクッキーは見事に軍医の口に入り飲みこまれた。突然部屋の気温が一気に下がったかと思うと白衣の悪魔が仁王立ちで淡く微笑んだ。 翌日。 「キモチわりー…」 二日酔いのような感覚を覚えて大佐が目を覚ました。執務室のソファで眠ってしまったようだった。辺りを見回すと中尉が壁によりかかって寝息をたてていた。 「あー、頭痛ぇ…」 大佐がコーヒーをいれようと給湯室に消える。執務室に残されたのは中尉だけだった。 すっかり忘れてました。これにあとがき書くの。 いつもは意気揚々とあとがきは楽しんで書くのにこれは忘れていて、ちょっとこのサイトを外から回ってみたらあとがきがなくてびっくりした。 えー、総司令部編のころのお話ですね。上田がまだ上等兵ですし。本当は斉刻編でのやつも書きたいところなんですがまだ登場させていないキャラがいて、それを本編で登場させてからでないと番外編も書けないんですよね。 これを上田に読ませたら「猫耳はやめようよ…」と言われた気もしましたが気にしません。だってウサ耳はさらに気持ち悪かったんで。(耳から離れるつもりなし) 柳、もとい柳瀬川には「このクッキーは使い道があるのか」と言われました。ありますとも。宴会やパーティーで出せば受けること間違いなしです。 軍医は食べてどうなったのかとか、ラストで上等兵はどこに行ったのかというのもありましたが、それは皆さんのご想像にお任せします。 |