アストレアの天秤
第一話 霧の野原に淡い色の髪が見えてダランは驚いた。 霧の野原はその名のとおり一年中霧に覆われ、視界がきかず、長く伸びすぎた背高泡立草に足を取られて怪我をしたり、隠れた沼に落ちてしまうから地元の人々に忌み嫌われる場所だった。そんなところに草に隠れて頭が見えたのだからダランが驚くのも無理はない。 恐る恐る近づいてダランが声をかけた。 「大丈夫ですか?」 返答はない。もしかして怪我で動けなくなっているのではないかと思って、鬱蒼と茂る草を掻き分けて頭が見えた方に進む。 草がなくなったところに、淡い金髪の少女がいた。少女と言ってもダランと同い年ぐらいだろうか。葦に身体を預けて熟睡している。 「大丈夫ですか?」 ダランはこんなところで寝ていては危ないだろうと少女の肩に触れ、起こそうとした。 「触るな」 低い声がしたと思ったら、ダランの手を突然現れた物が弾いた。それはダランと少女の間の空中で止まる。仔犬のような姿に鋭い牙を持ち、背にコウモリの翼を備えている。その全身を覆う体毛は黒。 「ま、魔獣!?」 獣は全身の毛を立たせて、牙をむき出し、今にもダランに噛みつこうとしている。 「やめて、ルーウェン」 眠そうな目を擦りながら少女が魔獣、ルーウェンに命令した。ルーウェンは大人しく下がり、少女の左肩に乗った。少女はルーウェンを一撫でしてからダランに向きなおる。 「え〜っと…何の用?」 「用じゃなくて…こんなところで寝てたから…」 「起こそうとしたの?大丈夫よ。ね、ルーウェン」 少女が微笑んだ。霧が立ち込めている中に日の光が差したようだった。 「私はチェルシー。あなたは?」 「ダラン…」 チェルシーが微笑んでいるのを見て、ルーウェンが確かに顔をしかめた。 ザイル共和国の首都ガサラ。緑豊かなこの地は昔から人間と魔獣が共存していた。魔獣と言っても家畜のような物から人に害をなすような物まで様々だ。しかしある時から彼らは人間に近づかなくなっていた。一説では人間が彼らの土地を奪ったからだと言われていたが、理由は不明だった。そして人間は彼らが近づかなくなった理由として代々こう伝えるようになっていた。 人間に対する食の衝動が抑えられなくなったからだと…。 そんなご時世で魔獣を肩に乗せ、まるで対等かのように扱っていたのが少女チェルシーだ。彼女のそばにいる魔獣、ルーウェンは小さな身体をしているから人間を食べるということはないかもしれないが、その全身を覆う黒い体毛は威圧感を与え、その鋭い牙は心の奥底の恐怖心を呼びおこす。ルーウェンはごく普通に育ったダランにとって恐怖の対象であった。 「その、ま、魔獣は…?」 「ルーウェンのこと?私の家族よ。お兄さんみたいな人」 ダランが本気で驚いた顔をした。ルーウェンが不機嫌な顔をさらにしかめる。 「どうしたの?ルーウェン」 「なんでもない。そろそろ帰らないと、母親が待ってるぞ」 「そうね。あなたも来る?」 チェルシーがダランの腕を引っ張り、返事も聞かずに連れて行く。 チェルシーは霧の野原を危なげなく抜けていく。沼のある位置も窪になっているところも草が絡みあっているところもすべて把握しているようだった。 やがて野原の畔にある小さな小さな家についた。煙突から煙が出ている。チェルシーが扉を開くと奥から声がした。 「お帰りなさい」 やがてチェルシーにそっくりな茶色の髪の女性が出てきて、突然訪問したダランごと笑顔で迎えてくれた。 どうも。突然始まった異世界ファンタジーもの。強調したい。こういうのが本業ですよ。 主人公はチェルシーのはず。チェルシー主人公で話を進めていく予定だったはず。…気がついたら何故かダラン中心に…。いえ、なんでもございません!!チェルシーの名前は言うまでもなく、某製菓名から…。 お気に入りはルーウェンです。かわいくてしょうがない。そもそもこれルーウェンを書きたくて書いたんで。 これを書いていて気がついた。名前を適当につけるとラ行が多くなります…。今までの発掘してみたら…ラ行が付いてない登場人物が二人しかいませんでした…。これにいたっては国名や都市名までラ行…。 まだ書いてない部分も多いので気合入れて書いていこう!!これにバトルはないはず!!おかしな人はでてくるだろうけど!! |