アストレアの天秤Top
アストレアの天秤
第二話


「チェルシー、その子は?」
「ダランて言うの。今会ったばっかりなんだけど、連れて来ちゃった」
 チェルシーの母親がダランの方を向いた。
「変わってるかもしれないけれど、仲良くしてあげてね」
「お母さん、そんなこと言わないでよ」
 チェルシーが母親を軽く叩いた。和やかな空気が流れる。
「座ってて。すぐに用意するから」
 チェルシーとダランにそう言って、母親は台所に立った。ごちそうになるのだから手伝わなければ悪いと思ってダランが口を開く。
「手伝い…」
「手伝いましょうか?」
 ダランの言葉をさえぎって手伝いを申し出たのは長身黒髪の男性だった。しかも街を歩いたら誰もが振り返ってしまうような淡麗な容姿。右目に額からのびる大きな傷跡があり、使えないようだがそれすらも彼の容姿をそこなってはいなかった。
「あら、いいのよ、ルーウェン」
「る、ルーウェン!?」
 驚きのあまり声が裏返ってしまった。
「えっ!?ルーウェンて魔獣…魔獣って人に化けられるのか」
 ダランが一人納得していると横にいたチェルシーに小突かれた。
「ダラン、ルーウェンは魔獣じゃないよ。元人間よ」
「元人間?魔獣じゃなくて?」
「元人間だって。詳しいことは知らないけど」
 ルーウェンが戻ってきた。椅子を引いてチェルシーを座らせるとその隣の椅子に座る。居心地の悪さを感じながら、ダランも向かいの椅子に座った。
「元ってどういうことですか…?」
 恐る恐る聞いてきたダランを一瞬見たが、ルーウェンはそのまま視線を逸らした。
 答えてくれないんだなぁ。なんか気に障ることしたっけ?とダランが思っているとルーウェンがおもむろに口を開いた。
「元人間ていうのは、昔人間だったってことだ」
 さっぱりと言ったルーウェンにダランが答えになっていないと言おうとすると、一睨みしてさらに続けた。
「今は人間でも魔獣でもない。人間としての生は一度終えている。中途半端な存在なのは生きたいと願ったことによる咎だ。だから人間の、昔の姿を取るのも色々制限がある。こんな風に」
 ルーウェンがダランの頭を叩こうと手を伸ばした。ダランが身をすくませると、手は頭に触れず、身体をすり抜けた。
「幽霊ってこと?」
 ルーウェンがまだ答えなくてはいけないのかとでもいうように眉間に皺を寄せた。
「幽霊ではない。物には触れられる。触れないのは人間だけだ」
 そしてルーウェンはダランと目を合わせないように別の方を向いてしまった。
「ルーウェン、ちょっと取って欲しいんだけど、いいかしら?」
 母親がこっちを見て言った。
「いいですよ」
 ルーウェンが立ち上がって奥に行った。
「ルーウェンはどうしてここに?」
「私が雨の中拾ってきたの」
 チェルシーが微笑んだ。
「人間じゃなくてもルーウェンは大切な家族よ」
 ダランはなんと答えたらいいのか考えたすえ、黙りこんでしまった。






「どれですか?」
「その一番上の大皿よ」
 ルーウェンが手を伸ばして大皿を取った。母親の身長だと何か台になる物を出して来なくてはいけないのだろう。それを机に置くと母親が手招きしているのが見えた。
「なんですか?」
「ルーウェン、そんなにピリピリしなくてもいいのよ」
 母親が眉間を指差した。いつの間にかまた皺が寄っていたらしい。
「ピリピリしているつもりは…」
 母親が首を振る。ルーウェンが口を閉じて母親を見た。
「つもりはなくてもいつもより余裕がなくなってるわよ。大丈夫。あなたはあなたにしかできないことがあるわ」
 母親がチェルシーの方を見た。チェルシーとダランは楽しそうにお喋りをしている。
「あの子は…多分長く生きることになるから…。ルーウェン、ずっとそばにいてあげてね」
 ルーウェンが人間の姿から魔獣の姿になって中空に浮いている。母親は悲しげに微笑んでルーウェンを撫でた。











 すさまじい…。今日ものすごい量書いた気がする…。
 ルーウェンは魔獣ではないのですね。元人間、一度死んでいるわけです。これ以外にも色々と書いていないものが…。





2007年8月27日


Back Next アストレアの天秤Top
Copyright 2007 Sou Asahina all right reserved.