アストレアの天秤
第七話 「ルー……ウェン…あの…知り合い?」 話についていけず取り残されていた二人のうち、チェルシーが恐る恐る問いかけた。ルーウェンが説明しようとする前に、スカルドが口を開く。 「そうそう。知り合いも知り合い、お互いの知らないことは何もないほ…」 「口を慎め」 スカルドの両頬を片手で掴み、機嫌の悪さ全開で睨みつける。スカルドはゆっくり彼の手を外して微笑みを浮かべた。 「今更恥じらうな♪」 「全世界のためにお前の舌を抜いてやろうか」 「困るな。舌がないと…」 ゴツッ! 「いってぇ!!」 頭を押さえて座りこむ。ルーウェンの拳が手加減なくスカルドの脳天を直撃したのだ。 「わずかな間でも黙ってられないのか。まともに説明もできないだろう」 「ルーウェン、お友達にはもう少し優しくしてあげた方がいいんじゃない?」 チェルシーがルーウェンをいさめている横で、ダランはさっきまで猫のような魔獣だった男に話しかける。光を受けて輝く髪を見て、薄緑の髪などこの国にはいないから彼もザイル人ではないのだろうとなんとなく考えていた。 「大丈夫ですか?そういえばさっきも倒れてましたけど」 「なんとか……あ、少年、さっきはどうも」 頭から手を放して、スカルドがはじめてダランを直視する。瞳も色が薄く、緑がかった茶色だった。 「え、あ、いえ」 あまりにも綺麗な色で食い入るようにその瞳を見つめてしまった。慌てて目線を外す。 「名前は?」 「ダランです」 「そうか…ダラン…」 スカルドが首をかしげた。何も言わないのでダランも同じように首をかしげる。 「少年は心底可愛いねぇ」 ダランがびっくりした表情のまま固まった。もう少し幼い頃なら可愛いと言われても何も感じなかっただろうが、もう12歳だ。しかもスカルドの言う「可愛い」のニュアンスは普通の「可愛い」と違う気がする。魔獣に会った時のような感覚に近いかもしれない。 「おい、馬鹿。未成年には手を出さないんじゃなかったのか?」 固まっているダランを見て、ルーウェンがスカルドにそう言った。 「出してないし、出さないよ。今はルーウェン一筋だからね♪」 「他をあたれ」 そうとだけ言ってチェルシーに視線を戻した。 「これはスカルド。この馬鹿とは…まあ幼なじみというところか。家が近所だったんだ」 「やっぱりお友達なの!」 「友達とは言いがたい」 「友達という関係を超越した…」 スカルドがルーウェンの言葉を補おうとするが、例によってルーウェンに遮られた。 「ただの知り合いだ」 「そんなに否定しなくても…」 ダランがそう口にすると、熱湯をも一瞬で凍らせる視線を向けられた。 「少年相手にそんなに睨まなくてもいいだろ。可愛さに免じて許してあげなよ」 「お前は黙ってろ」 「いやいや、黙らないよ。まだその子の紹介してもらってないからね」 スカルドがチェルシーの方を向いた。ルーウェンがはっきりと舌打ちする。 チェルシーが不思議そうに自己紹介をする。 「はじめまして、スカルドさん。チェルシーって言います。ルーウェンの家族です」 「あぁ、キミがルーウェンの家の人か。それでもって例の…」 「スカルド!!」 スカルドの言葉をルーウェンが慌てて遮った。表情には焦りと怒りの色が浮かんでいる。 「やだなぁ。そんなに怒らないでよ。ね、ルーちゃん♪」 「誰がルーちゃんだ。そんな風に呼ぶやつはいない」 「だから今から俺が…」 「やめろ」 冷たい返答にもめげずに、まだ言葉を重ねる。 「幼なじみなんだからせめてあだ名で呼ぶくらいはさぁ」 「変なあだ名をつけるな」 「まあまあ」 宥めつつ、口を耳元に寄せた。ダランとチェルシーは二人の会話についていけずに顔を見合わせているのでその様子には気づかない。 「お前が隠そうと躍起になってもあまり意味がないかもしれないよ」 「何故…?」 「向こうじゃ有名すぎるくらいだ。耳に入ってもおかしくないほどに…」 いつの間にかスカルド祭りに!!でもこういうやつだから『あの馬鹿』扱いなんですけどね!! というかいつの間にアストレアの天秤はコメディになったんですか?もうちょっと自重してくれないとコメディにしか見えないよ、スカルド。路線的にはシリアスとかだった気がするんだけどなぁ。 スカルドの過去編を番外で書こうと思ってたんですけど、存在自体が18禁なんで、構想内容がどんどん18禁になっていって…諦めました。てか過去編書いたらスカルドがあれなんで確実にボーイ……やめましょう。危ない橋は渡らない主義なんだ!! |