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アストレアの天秤
第四話


「ディーナ、なんでここにいるの?」
「お母さんが遅いから迎えに行ってこいって」
「あぁ、それで来てくれたのか。ありがとうディーナ」
 ダランの言葉にディーナは微笑んだ。さっきチェルシーを睨んだ子とはまるで別人だ。
「ダランとディーナちゃんのお母さんが待ってるんでしょう?急いだ方がいいんじゃない?」
 兄妹の間に割って入るのは腰が引けるが、チェルシーは恐る恐る声をかけた。
 ダランはこちらを向いてそうだったと呟くが、妹のディーナは割って間に入ったチェルシーを睨む。その視線に気づいたルーウェンが何気なく前に出てチェルシーを隠す。
 ディーナが不思議そうにルーウェンを見上げた。
「お兄ちゃん、連れてくるお友達って一人じゃなかったの?」
「え?あぁ、うん…」
 なんと言えばいいのか分からず、はっきりしない返事を繰り返しているとルーウェンが口を開いた。
「本当は妹だけ行く予定だったのだが、母が心配するので私もついて来たんだ。突然人数が増えてしまって申し訳ない」
 わずかに、気づくか気づかないかという程度に微笑んだ。ルーウェンが言う妹というのは今彼の後ろにいるチェルシーのことだ。
「そ、そうですか…」
 今までずっと黙っていたルーウェンが答えるとは思っていなかったディーナは驚いて、やっとそれだけ言った。しかし驚いたのはディーナだけでなく、ダランも目を丸くしていた。
 ダランは道の方に目を向け、驚きを隠すために深呼吸をした。
「母さんが待ってるから急ごうか」
 後ろを振り返らずにダランが歩き出した。ディーナは急いで後に追いつく。チェルシーとルーウェンは彼らに遅れないように、近づきすぎないように距離をあけてついて行った。






 家につくとダランが念のために呼鈴を鳴らした。
 すぐに扉が開き、ダランとディーナの母親が顔を出す。
「遅かったじゃないの。さぁ入りなさい」
 母親はダランの友達というには年齢の違うルーウェンに驚いた顔を見せるが、特に何も言わずに彼らを中に招き入れた。
「すいません。うちの子が昼食にお邪魔したようで」
 母親はチェルシーの保護者に見えるルーウェンに頭を下げた。
「いえ、こちらこそお招きいただきまして。二人で押しかけてしまって申し訳ありません」
 ルーウェンが保護者役をそつなくこなしている。ダランからすれば違和感の塊なのだが、チェルシーは特に気にした様子はないので、いつものことらしい。
「さぁそこに座って。すぐに用意するから」
 そう言って客を椅子に座らせ、母親はダランを呼んだ。
「何?母さん」
「あの子、どこに住んでるの?」
「霧の野原の側の家だよ」
「随分おかしなところに住んでるのね。外国から来たのかしら」
 ダランは母親の言っていることが分からず首をかしげた。母親がその様子に気づいて言う。
「ほらあの子、髪が茶より金に近いでしょう?それにあの男の人も黒髪だし…」
 ここまで来てようやくダランも気づいた。チェルシーとルーウェンはザイル人共通の茶髪に茶色の瞳ではないのだ。もちろんザイル人にも色の濃淡の違いはあるが、チェルシーほど薄い色の人はいないし、ルーウェンほど濃い色の人もいない。純粋なザイル人のくくりに入れるには彼らは違い過ぎるのだ。
「さぁ。今まで気づかなかったから。母さん聞いてみたら?」
「知らないならいいのよ。それに聞くのはなんか悪い気がするわ」
 母親は何事もなかったかのようにスープを皿によそって、ダランに持って行くように言った。












長らくお待たせいたしました。「アストレアの天秤」の第四話をお届けいたします。  まだちょっと俺の精神に火を付ける物がないので更新が遅めですが許してください。あと二話ぐらい書かないと俺の精神に火が付きそうにない。  少しの間ブラコンな妹を書かないと…。



2008年3月1日



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