アストレアの天秤
第五話 「あんたなんなのよ」 ディーナがぶっきらぼうに行った。それは確実にルーウェンではなくチェルシーに向けられた言葉だった。 居心地悪そうにテーブルについていたチェルシーは戸惑っている。 「何って言われても…」 頼みの綱のルーウェンも、危害を加えたりしないからか、ディーナをほっといている。 「お兄ちゃんに近づいてきて何が目的なのよ」 「…ただ友達になりたいだけで…」 「それだけに見えないから言ってるの!!勝手に私のお兄ちゃんに近づかないで!!」 「そんな…」 「大体あんた外国人でしょ?どうしてここにいるのよ」 チェルシーはディーナの歯に絹着せない物言いに驚き、困り果てている。傍観していたルーウェンも眉間にしわを寄せた。 「なんでって言われても…」 「お前」 ルーウェンがディーナを指差した。ディーナがビクッと身体を震わせた。隻眼のルーウェンはそれだけで子供を怯えさせるだけの迫力があった。 「言葉には気をつけろ。そんなことを言われて気持のいいやつなんていない」 「ご…ごめんなさい…」 「そんなに気にしないで、ディーナちゃん。少しだけど、私にザイル人じゃない血が混じってるのは本当だから」 そう言ってチェルシーがディーナを慰めていたところに、大皿を抱えてダランと二人の母親が現れた。 「どうかした?」 落ち込んでいるディーナを見てダランが言った。 「あたしが…」 「気にしてないから。ディーナちゃん、言わなくてもいいよ」 チェルシーが優しく微笑んだ。ディーナがぎこちなく笑う。 ダランは二人の様子を見て少なからず驚いた。チェルシーが初めて会う人とすぐに打ち解けるのは自分で分かっているが、ディーナはどちらかと言うと人見知りが激しく、中々打ち解けないからだ。 みんなで食事をしている時も、ダランはそわそわと二人の顔を交互に眺めている。ダランの母はそういうことには無頓着なので気付かないだろうし、事情を知っているルーウェンは黙って料理を口に運び、時々母に美味しいと言っている。ダランが知りたくてもルーウェンでは教えてくれないだろう。 「ちょっといいか」 食事が済み、女三人が談笑している脇で、ルーウェンがダランについてくるように言った。ダランはおとなしくルーウェンについて行く。話が盛り上がっているので、彼らの様子に三人は気付かない。 ルーウェンについて行くと、家の裏に出た。夕食時で辺りに人影はない。 「お前も気づいているだろうから教えておいてやろう」 「何を?」 ルーウェンは黒い隻眼で、ダランをじっと見ている。ダランが眉を寄せた頃になってようやく、重い口を開いた。 「あの子は純粋なザイル人ではない」 「そりゃ…髪の色を見れば気づくけど…。それがどうか…」 「お前らが言うところの普通の人間でもないと言ったら?」 ダランはパッとルーウェンを見た。ルーウェンは相変わらず、不機嫌そうに眉間に皺を作っている。まったく表情が読めない。 「普通じゃないって…」 「俺に近いものがある」 「どういう…」 「これ以上は教えられないな。あの子も父親がザイル人ではないということしか知らない。だからあまり髪の色のことや父親のことを聞くな。いずれ、知る時が来ることを願っていろ」 ルーウェンはそう言い残して家の中に戻って行った。彼はダランに釘を刺すために呼んだのだ。 ダランは一人、薄暗い外の世界に取り残されて、小さく呟いた。 「普通じゃないって…どういうことなんだ…」 一人では解決出来ない疑問を抱えたまま少年は家の中へ、家族とルーウェン、そしてチェルシーがいる場所へと戻って行った。 アストレアの天秤第5話、大変お待たせいたしました。 そろそろ俺自身に熱が入ってくる展開ですが、ここでお知らせが。このアストレアの天秤はしばらく休載とさせていただきます。来年春には復活できると思いますので、それまで気長に待っていてください。来年春と言いながら今年中に突然復活するかもしれませんけどね。 一応、次回予告。 なんと次回(次までが長いけど)あの!あの!!俺のこだわり!例のあの馬鹿(こう呼ぶのは作者だけ)が登場です!かなり話が進むことが予感されます!何故ならあの馬鹿のノリによって話が進むのですから!! |