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犀雅国陸軍軍事記録
第12話 仁慈なき戦い後編


「対戦相手は上田だったんですか…」
「それよりも…」
 上田上等兵は大佐の横を通り過ぎて、東野大尉に近づいていった。大尉は危険を感じ取ったのか右足で上等兵の腹を蹴った。クリーン・ヒット。上等兵は腹を押さえてうめく。
「い、痛い。ヒールが刺さった…」
「元の位置に戻りなさい」
「話しかけようとしただけなのに…」
「暑苦しいのよ」
 大尉に手ひどく打ちのめされて上等兵はすごすご帰っていった。
 上等兵が元の位置に戻ったところで実況放送が入った。
「対戦者も位置につきましたのでそろそろ始めたいと思います。実況は私、柳がつとめせていただきます」
 中尉!?実況をやるためにいなくなったのか。
「先に行っておきますが、手を抜いたりしたらライフルで打ち抜きますから。上等兵、上司だからといって手を抜かないように。大佐も上等兵だから大丈夫なんて甘い考えを持っているようですとバズーカ砲で打ち抜きますから気合いを入れてがんばってください」
 実況に脅しが入ってないか!?
「では始めてください」
 開始の合図とともに上等兵が発砲した。大佐はとっさによけたが弾は左足をかすっていった。かすったところから血が滲み出す。
「…本気でやってるんですか…?」
「もちろん。中尉にライフルで撃たれるくらいなら」
「…ところで、軍医の筋肉増強集中力アップとかいう薬、飲みました…?」
「飲まされました。口を無理やり開けさせられて…」
「大変ですね…」
 ここで実況が入った。
「無駄話してると撃ちますよ」
 あれは絶対実況じゃないだろう!?とつっこみたいがこれ以上しゃべったら確実に撃ちぬかれるので試合を再開した。
 しかし大佐はよけるので精一杯で狙いを定めることができず弾はとんでもない方向に飛んでいくばかり。つまり完全に弾の無駄遣い。
「…本気出してますか?」
「本気です!必死です!」
 大佐が答えると上等兵は体勢をずらしながら一発撃った。大佐は気づいて避けたが避けきれず右わき腹にかすった。大佐がうめくと上等兵は続けてもう一発撃ち今度は左肩を撃ちぬいた。大佐も銃を撃ったが、なぜか客席のほうに飛んでいった。
「あぶねぇだろ!ちゃんと狙えノーコンが!!」
「大佐が撃った弾に当たった方は医務室のほうへどうぞ」
 中尉の実況はアナウンスと化していた。
 大佐が避けて、上等兵が撃つという状況のまましばらく戦っていたが、面白みがないとブーイングが出始めた。
「仕方がないですね。大佐、これ使ってください!」
 実況になっていない実況で中尉が言った。それと同時に何かが大佐のほうに飛んでくる。そして大佐の右腕をかすめてそれは地面に突き刺さった。それは、短剣だった。
「投げないで下さい!下手したら腕がなくなりますから!」
「大丈夫ですよ。腕がなくなっても医務室に行けば生えますから」
 え!?も、もしかして医務室にはあの人が!?それより生えるって何!?
「医務室には三浦一等軍医正がいますから」
 医務室行きたくねぇ!!上田上等兵は思っていた。大佐も苦い顔をしているから同じことを考えているのだろう。
「今入りました情報によりますと、敗者は三浦軍医の実験に付き合ってもらうそうです。実験内容は…軍医特製の睡眠薬の致死量を調べたいんだそうです。……軍医はナチスなんですかね」
 死ぬ!?その実験に付き合ったら確実に死ぬ!?これは勝たなければ…。
 実験台になるのは絶対いやだった大佐は中尉が投げた短剣を掴むと上等兵の間合いに入った。大佐の行動を読んでいた上等兵は体を右にずらして大佐を避け、そのまま大佐の腹部を思い切り蹴った。大佐は受身をとって衝撃を抑えたがそれでも血を吐き出すほどだった。
 大佐が袖で血をぬぐうと中尉の実況にならない実況が入った。
「軍服は汚さないで下さい。経費がかさむんです」
 そんなものは聞こえないかのように大佐は短剣を構え、上等兵に突進していった。上等兵は手をはたいて短剣を叩き落そうとしたが、反応が間に合わず頬が切れて軍服を濡らした。
「大佐…だいぶ本気になってません?」
「そうかもしれない」
 ですます調じゃない!?上田上等兵はすごく驚き大佐の顔を見た。よく見ると大佐の右目だけが真っ赤に充血している。
「結膜炎!?じゃなくて斉刻の孤狼が目覚めてる!?」
「上等兵、それは完全な斉刻の孤狼ではありませんよ。短剣なので半分ぐらいしか目覚めてないんでしょうね。まぁ、がんばって止めてください。でないと軍の半分が死亡してしまいます」
「中尉!がんばってくれって短剣渡したの中尉っすよね!?」
「撃たれたいんですか?」
「…ガンバリマース」
 かくして上田上等兵対(半)斉刻の孤狼が始まった。しかし斉刻の孤狼はうまくたちまわり、間合いに入っては上等兵を少しずつ弄るように傷つけていく。上等兵も銃で応戦したが、大佐であるときとは真逆なほど反射神経がよくなっているのでなかなか当たらない。
「足を打っても止まらないってありっすか!?」
 上等兵がそう言ったのはとりあえず止めようと思って大佐の足を打ち抜いたときだった。当たったにもかかわらず、斉刻の孤狼はスピードを緩めることなく突っ込んできた。短剣をなんとか銃を盾にして防いだが銃はもうボロボロでこれ以上防げるかわからない状態だった。
 中尉の実況が入った。
「朝比奈大佐の一撃を銃で防いだ上田上等兵は二歩後ろにさがって大佐の次の攻撃にそなえています。ところで皆さん。この二人を野放しにしておいていいと思いますか?この危険な二人にはここで共倒れしてもらうのがいいと私は思うんです」
 そして中尉はバズーカ砲を取り出して大佐と上等兵に向け、はっきりと言った。
「というより、もう飽きました」
「中尉―!?」
 注意の突然の行動に驚く上田上等兵。ビクトリアならバズーカ砲でも切れたのにと悔しがる斉刻の孤狼。
 中尉は撃った。
 命中。
 観客ごと吹っ飛んだ。
 中尉は一息つくとバズーカ砲を背負って会場を後にした。
 そして誰もいなくなった。
 いや、いた!観客席の中央に。あれは…相模大総統だ。大総統はどうして無事なのだろうか?
「強いのは柳中尉ということで」
 それだけ言うとどこかに走っていってしまった。











 どうですか?これを書いててしみじみ思うんですけど斉刻の孤狼が出てくると話がコメディからバトル物になってる…。こんなんでいいんですか?まぁ、その他がぼけてるからいいよね。
 自分で書きながら笑ってしまうんですけど、他にもこんな人いませんか?ということで次は「究極の選択!?」というタイトル。内容は上田が左遷される!?てか、左遷されてしまえ!!by朝比奈大佐。
 こんなんで次の予告になっているのか謎。





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