犀雅国陸軍軍事記録
第13話 究極の選択!? 「さみー」 そう呟きながら上田上等兵が第三部隊執務室に入ってきた。今は冬も真っ盛り、雲があったら雪でもふるのだろうが空は晴天だった。 「この程度で寒いと言っていたら南極になんか行けませんよ」 「行かねぇよ!」 執務室の中には3人がテーブルに座ってコーヒーを飲んでいた。上等兵につっこまれた朝比奈大佐と大佐が逃げないように常に見張っている柳中尉、そして…白衣の悪魔、マッドサイエンティストこと三浦一等軍医正。 「軍医!?」 「はい。何です?」 「…呼んだわけでは…」 「あら。そうですか。ところで南極…いいですね。凍傷になった指を解剖してみたいと思ってたんです。行ってきて下さい」 軍医がにっこりと微笑んだ。大佐も笑って言う。 「行ってこい。左遷扱いにしてやるから給料の心配はしなくていい」 「本気なんすか!?」 大佐はただ笑っていた。 いつの間にか大佐の後ろに回った軍医が突然大佐の首を掴んだ。驚いた大佐は軍医の手をはずそうともがくが軍医の力は予想よりもはるかに強かった。 「ぐ、ぐるじ…」 「大佐、今日は新薬の実験に付き合ってくださる約束でしょう?」 「知りません!ぐぁ…、た、助けて…」 大佐は中尉に助けを求めたが、中尉はハンカチ片手に涙ぐむふりをしていた。助ける気はゼロだ。 「助けて!」 叫びとともに大佐は軍医に連れ去られていった。 執務室は中尉と上等兵だけになった。 「中尉、南極行きって本気っすかね…?」 「でしょうね。軍医は実験のためなら人一人殺しかねませんから」 「殺っ…大佐は冗談すよね…」 「さぁ。本気じゃないですか?丁度いいから目の上のたんこぶを左遷させようというとても大佐らしい考え方ですよ」 「…実は大佐って黒いんですかね…」 「私は斉刻の孤狼というのは大佐の理性が吹っ飛んだ姿だと考えているんですがどうでしょうね。白衣の悪魔と比べるとほとんどの人が純白ですからね」 「例外は中尉…」 「何か言いました?」 にっこりと笑みを浮かべて銃の引き金に手をかけていた。そんな中尉を見て上田上等兵は思わず手を上げた。 「言いません!何も言ってません!」 「あらそうですか?じゃあいいです」 柳中尉が銃をしまうとまたコーヒーを飲み始めた。上等兵もコーヒーを飲もうとインスタントの袋を開けているところに白衣の悪魔に連れ去られた朝比奈大佐が帰ってきた。連れ去られる前よりもやや、やつれている気がする。 「上田上等兵、私にもコーヒーをください。できればインスタントじゃないやつで」 「前にコーヒー入れたやった時に男が入れたコーヒーなんて飲みたくないって言ったの大佐ですよね」 「うっ…じゃあいいですよ。中尉、キリマンジャロコーヒーを砂糖、ミルク、塩など抜きの状態で入れてください」 「キリマンジャロは今切れてます。ブレンドならありますよ」 「ブレンド…やっぱりいいです」 ブレンドという言葉はあの恐ろしい、何が入っているのか確認したくもない中尉のスペシャルティを思い出させる響だったので拒否した。 仕方なく大佐はミネラルウォーターを出して飲んでいた。一息にペットボトルを空にする大佐を見て上田上等兵はおもむろに口を開いた。 「大佐…南極左遷どうにかなりませんかね…?」 「行きたいんですか?それなら私が推薦状を書いて陸軍総裁に…」 「行きたくないんです!!軍医の魔の手から俺を救ってくれ!」 「さっき助けなかったくせに…とりあえず上官には敬語で話なさい」 「分かりました朝比奈大佐」 うって変わって上等兵は背筋を伸ばして敬礼をした。 「できるなら最初からやってくださいよ。いいでしょう。と言っても私が白衣の悪魔相手にできることなんて限られてますから、上田左遷しましょう」 「はい。…えっ!?さ、左遷!?されたくないから頼んでるんですよ!?」 「だから白衣の悪魔のために左遷されるぐらいなら軍のために左遷されなさい。とりあえず実験台にならずにすみます」 「あぁ。そういうことっすか。で、どこに左遷されるんすか?」 上等兵が聞いたら大差は机の上の書類をバサバサと動かして何かを探し始めた。机の上がさらに汚くなる中、探していたものは大佐でなく中尉が見つけた。B5版の紙一枚だった。 「なんすかそれ」 「上からの書類。左遷先はここ、犀雅国を敵視している南の国ですね」 「南の国っていうと…あの国土のほとんどが砂漠な…」 「そう。国土の8割が砂漠なために緑豊かなこの土地がほしいんだそうで。一触即発ですね。今にも宣戦布告されそうなんで第三部隊から先に20名ほど送ってほしいということです。ということで上田でちょうど20人になったんでいいですね」 「ちょっと待った!宣戦布告って俺戦場に送られるんですか!?いやっすよー。まだ死にたくありませんから」 「助かる確率の高い戦場と、8割の確立で死ぬ白衣の悪魔の実験台。どっちがいいですか?」 にっこりと笑う大佐。上等兵は思わず棒読みで即答した。 「戦場行きます。レッツゴー砂漠」 「ではよろしく」 数日後、上等兵は砂漠に向かう飛行機の中にいた。雪がふりそうな天気だったが飛行機は無事大空へ飛び立った。 その頃、三ヶ国協議中の相模総統は…。 「我々はすでに戦争の準備ができている」 砂漠の国の首相が挑発的に言った。 「ということですが犀雅は宣戦を受けるんですか?」 今回の三ヶ国協議を計画した永久中立国の首相が真摯な態度で聞いてきた。それに対して相模総統はにっこりと笑って答えた。 「宣戦?受けるわけないじゃないですか。費用がかさみますし…」 そして大総統はこれ以上はできないというほど満面の笑みを浮かべてさらに続けた。 「めんどくさい」 大総統のこの言葉に二人の首相は唖然として互いに顔を見合わせていた。 「戦争は嫌いなので犀雅国は不戦争主義でいかせていただきます」 相模総統は高らかに笑った。 大総統が不戦争宣言を出した後の陸軍第三部隊執務室では…。 「不戦争主義だそうですよ。軍隊なくなったりしませんよね」 大佐に緑茶を出しながら中尉が言った。 「それはないでしょう。元から肉体労働便利部門みたいなところがありますからね。それよりも戦争をしないのならばこの部隊から出した20人が帰ってきますね」 戦争がなくなることまでは読んでいなかったから、文句なら大総統に言ってくださいね上田上等兵と思っている大佐だった。 そして、その頃の上等兵は…。 大総統の不戦争宣言を受け犀雅国に引き返そうとしたが飛行機のエンジンが一つ落ちるというトラブルが発生。パラシュートで全員脱出しようとしたが数が5個足りなかった。じゃんけんをした結果上田上等兵のほか4人が残ることに。じゃんけんに勝った人がパラシュートで脱出した後、なんとか不時着させようとしたがバランスを崩し地面に激突かと思われた。が、海に落ち難を逃れた。 5人が陸地に泳ぎ着くとそこは…ジャングルだった。 「ここどこだ?」 「さぁ」 そんな会話をしていると物音がした。5人がそれぞれ構えると5人を原住民が取り囲んだ。右手には槍、左手には…人骨を持って…。 「骨!?もしかしてこれがうわさに聞く食人族!?」 上等兵が驚きの声をあげる中、他の四人はすでに手をあげている状態だった。食人族を相手にするだけの体力は誰も残っていなかったのだった。 お待たせしました。いいかげん続きを書けと上田に言われたので書きましたよ。実は「究極の選択!?」は去年にはもう書けていたなどという裏話がありますがね。上田に書けといわれたのは次のやつです。 といわけで次回予告。(同時UPも考えられますが) 食人族にとらわれた上田上等兵たちの運命やいかに!果たして上田は犀雅国に帰れるのか!?そして大佐は実験台に逃げられキレ気味の白衣の悪魔の魔の手から逃げることができるのか!?(無理by柳)食べ物がおいしい次回作「最後の晩餐!?」をこうご期待。 …ところでこれ、次回予告になっているのだろうか…。 |