犀雅国Top
犀雅国陸軍軍事記録
第19話 感動の再会!?


 列車は耳が痛くなるような音を立てて止まった。ごく僅かな人々がプラットホームへと降り、有人の改札を通って思い思いの方向へと歩いて行く。
「上田、早くしてください。置いて行きますよ」
「ちょ、だったら自分の荷物は持っていってくださいよー!!」
 上田上等兵改め、上田伍長を置いて柳中尉が駅を出た。今日は濃い緑色の軍服ではなく、パリッとした真新しいスーツを身に着けている。列車の中に軍服の軍人がいると他の乗客が萎縮してしまうという配慮からだ。
 駅から斉刻司令部までは少し距離があるから迎えが来ると言っていたが、果たして迎えは誰なのだろうか。
「まさか…あれじゃありませんよね…」
 柳中尉が一抹の不安を覚えて辺りを見回した。タイミングを見計らったかのように白い乗用車が走ってきて、駅の、中尉の目の前で止まった。
 運転席の扉が開き、中から仕官、下士官の象徴である緑色の軍服を着た男が降りてきた。銀縁の眼鏡にこれと言って特徴のない顔、そして軍人にしては小さすぎる身長。
「大佐ですか…」
 中尉の不安は的中した。
「他に誰がいますか」
 朝比奈大佐が愛車の扉を閉めながらそう言った。中尉の目から見る限り、変わったところはなさそうだ。日に焼けたり、怪我が増えたりもしていない。くたびれた軍服もそのままだ。
「大佐、迎えに来ていただいたのはうれしいんですが、護衛とかそういう者を連れてはどうですか?一応、大佐でしょう?」
「私より弱いのなら護衛は必要ありませんよ」
 大佐が笑った。中尉がどういう意味か問いただす前に、あの暑苦しい声が聞こえてくる。
「あ、大佐」
 上田伍長が荷物を抱えて駅の階段を下りてくる。
「上田…もうちょっと敬意という物を払ってくださいよ。久しぶりに会ったのに『あ、大佐』はありませんよ」
「別にいいじゃないっすか。大佐は大佐なんすから」
「…給料減らすように申請出すぞ…?」
 見た目だけでなく、中身も変わってはいないようだ。
「失礼しました。けど、この状態で敬礼しろっていうのは無理ですから。で、迎えは大佐だけですか?」
「そうですよ」
「普通もっと手の空いてそうな人が来るもんじゃ…」
「私が一日中机に向かって仕事してられると思いますか?」
「逃げたんすね…」
 中尉が銃を大佐の額にピタリと当てて、セーフティロックを外す音を立てた。軍服でなくてもやはり銃は隠し持っていたのだ。すでに大佐は両手を肩の位置まで上げている。
「大佐、首都を離れて一年経ってからも本当に何も変わらなかったようですね」
「はい…」
「すぐに司令部に帰って仕事しろ」
「すみませんでした…」
 大佐は大人しく運転席に乗り込んだ。上田伍長が勝手にトランクを開けて荷物を詰め込んでいる。中尉は何も言わずに助手席に乗る。
「そういえば大佐」
「なんですか?」
 中尉が銃をしまい、変わりに白い封筒と懐から取り出した。
「お届け物です」
「手紙?大総統からですか?」
 大佐が遠慮なく、封筒を破って開けた。中から一枚の便箋がでてくる。
『朝比奈大佐、お久しぶりです。元気でいらっしゃいますか?大佐がそちらの司令部に移られてから、もう一年も経つのですね。私も少し暇が出来たらそちらまで足を伸ばそうと思っているのでその時にまた会いましょう』
 署名がないが、この細く美しい文字にはどこかで見覚えがある。
「誰からですか?」
「…白衣の悪魔からです」
 中尉の言葉に大佐の顔が引きつった。
「手紙にはなんと書かれているんですか?」
「こちらに遊びに来ると…」
「……そろそろ司令部に行きましょうか」
「そうですね…」
 大佐が車を発進させた。車は徐々に加速して斉刻地方軍事司令部へと向かう。
 彼らは忘れていた。一人乗せていないことを。
「大佐ー!!中尉ー!!俺を置いて行くなー!!」
 上田伍長は走って車を追いかけて行った。












 お久しぶりです。いよいよ斉刻編開始いたしました。しかし…一年のギャップは大きかった。大佐の口調を忘れかけています。犀雅国のいつものノリを忘れかけています。なんかもう少し人間離れしたノリだった気が…。
 次回に面白いところを集中させてしまった結果ですけどね。仕方がない。あきらめよう。
 そんな犀雅国ですが、次回ついにあのキャラが!!新キャラが!!出番ですよ、キミたち!!お待たせいたしました、モデルになっている人たち!!





2008年2月29日


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