犀雅国陸軍軍事記録
第23話 本気の捜査!? 「大佐」 「なんですか、柳中尉」 「仕事のほうは進んでますか?」 「進んでるじゃないですか。ほらこの山!」 朝比奈大佐はいつものように中尉が山積みにしておいた書類の山を叩いた。それは中尉が積み上げた高さから半分ほどに減っている。 「それじゃありません」 「他にあったか?」 本当に思い当たらないようで、大佐は素で聞く。 「ありましたよ。大総統から直に頼まれた中佐殺しの件」 「あ……」 大佐はもともと斉刻の地で起きた中佐殺人事件のために来たのだ。殺された中佐は斉刻地方軍事司令部に勤めていて、現在の大佐のポジションにいたのだ。 「…大佐、調べは進んでますか?」 「………」 中尉が銃を抜いて一発撃った。硝煙が上がる。大佐のデスクに人の姿はなく、書類の山に点々と赤い染みがついている。 扉が開き、佐伯少尉が入ってきた。珍しく今日は少尉一人だった。 「あれ?柳中尉、朝比奈大佐はいないんですか?」 「消えました」 「じゃあ、中尉がこれにサインしてもらえますか?今日の終了確認なんですけど」 「わかりました」 「で、大佐、山に来て一体何を…?」 「仕事です」 「いや…そういうことではなく、何の仕事っすか。こんな山に」 いつもの五人、朝比奈大佐、柳中尉、上田伍長、佐伯少尉、市ノ瀬軍曹は犀雅国の国境にあたる山に来ていた。もちろん中尉は大佐の見張り、上田はいつものノリ、少尉と軍曹は「面白そうだから」という理由でついてきている。もっとも軍曹は「少尉が行くところにはついていく」という理由のほうが強いだろうが。 中尉が深くため息をついた。 「いいですか、上田伍長」 そう言って中尉は大佐が去年起きた中佐殺しのことを調べているという旨を伝えた。 「なんで、山の中で?」 「知りませんよ」 「朝比奈大佐、どうしてですか?」 少尉が中尉や上田に代わって大佐に聞いた。もちろん軍曹は無言のまま少尉の後ろに立っている。 山登りで少し上がった息を整えてから、大佐が答える。 「国外の犯人という線から潰していこうと思いまして」 「どうして国外犯人説が?」 「上田、少し考えてから喋るぃ…なさい」 「大佐、今噛んだんですよね?」 「う、うるさい!とにかく、斉刻は犀雅国の西の端。一番守りがほしいところですよ!何故だか分かりますか、中尉!」 面倒そうに中尉が答えた。 「国境に面した隣国とあまり仲がよくないからでしょう?」 「その通り!さすが中尉」 「一般常識です」 中尉が一般常識と言ったことが分からなかった上田は落ち込んで後ろに下がり、とぼとぼと歩き出した。 「つまりですね、斉刻地方の守りの要、斉刻司令部のトップを潰せば、少なからず国内ががたつくとでも読んだのではないかと思いまして。国境を無理に突破した跡がないか調べに行くんです」 「もし国外犯説が正しいとすれば、隣国の上層部が一枚かんでますね」 「その通りです。少尉が話の分かる人でよかった」 「戦争になっていたかもしれませんね」 軍曹がボソッと呟いた。上田が心底嫌そうな顔をする。 「戦争起きてたら、確実に俺、出兵じゃないっすか。嫌なこと言わないでくださいよ、軍曹」 「もし私が伍長の上司だったら、一番戦乱の激しそうなところに送る…」 「………」 そうして五人は適度に無駄口を叩きながら、国境線である山の頂上を目指して進んだ。 「ちょっ…と……これは、軽く散歩…という、道のりじゃないですね…」 大佐がだいぶ息を切らしながら言った。それほどに国境の山は高く、険しい。これはもう登山だ。 「大佐、そんなにへばらないでください…よ。訓練じゃこれぐらい、軽い軽い…」 「そんなこと言ってる上田もかなりへばってますよ」 先頭にいた大佐は一番後方へ、上田も大佐と大して変わらない位置にいた。対して一番元気なのは軍曹だ。顔に出ないから分からないだけかもしれないが。 「朝比奈大佐、あともう少しですから頑張ってください」 「少尉…俺には優しい言葉をかけて、くれないんですか…」 「上田伍長が遅れたら置いていくだけだ」 「がうぅぅ…」 「軍曹、同意する、代わりに…唸らなくても…」 「唸ってない」 「へ?じゃあ今のは…?」 ガサガサッ。 五人は一斉に音のした方を向いた。二メートル、いや三メートル近くある黒い毛皮の動物が歯をむき出してのそのそと近づいて来ていた。 「「「「く、クマー!?」」」」 四人の声が完璧に重なる。 「全員退避!!」 大佐の指示で五人は駆け出した。 これでこそ犀雅国だと思った。クマ…。 中佐の件は…作者が忘れていたわけでは…ない…と思う…。覚えてようが覚えてなかろうが、この前まで斉刻編として新しく始まったから説明的なところ書かなきゃいけなかったですしね。 前回上田メインという様なこと言いましたけど、長くなりそうなので上田メインは次回で。つまり次回に続く。 |