犀雅国陸軍軍事記録
第25話 危険な小包!? 「た…大佐、大変です…」 「上田、うるさいですよ」 「いや、騒いでないんでこれぐらいでうるさがられても…」 書類を書く手を止めて、大佐が眼鏡を拭いた。その隙をついて上田伍長は持っていた小包を大佐の机に置く。 「そんなところに置いたら邪魔ですって」 「送り主見てから言ってください」 「送り主?」 眼鏡をかけて大佐が送り主の欄を見た。顔が青くなっていく。 中尉がコーヒーを片手に執務室に入ってきた。 「何してるんですか、大佐。さっさとその書類終わらせてください」 「中尉…この小包が…」 「小包がどうかしたんですか?」 中尉が小包に貼り付けられた紙をはがす。 「あて先朝比奈総一郎。中身は食品。送り主…三浦…?」 はがした紙を元通り貼り付けて、中尉は自分の机についた。何かするわけでもなくただコーヒーを飲んでいる。 「あの…中尉、感想とかないんですか…?」 「何の感想ですか?」 「送り主の欄の…」 コーヒーを一気に飲み干して、中尉は大佐と上田の方を向いた。 「白衣の悪魔と同姓同名の知り合いがいるなんて知りませんでした。すごい偶然ですね」 「そんな偶然あってたまるか!!どう考えても本人ですよ!白衣の悪魔本人からの小包ですよ!!」 「へえ」 「なんでそんなに反応が薄いんですか…」 「他人事だからです」 「大佐、大佐」 「下等兵、なんですか」 「下等兵じゃないっすよ。で、開けないんですか、小包。食品て書いてありますけど、ほっといたら中身が腐るんじゃ?」 「腐ってしまえ……」 大佐がそう吐き捨てた。中尉が大佐の書類の山をさらに増やして、処理済の書類を運びながら淡々と言った。 「大佐、そういう本音は日記帳だけにしておいてください。それと、上田伍長、仕事しないなら総司令部に帰って上等兵からやり直しなさい」 「すいません、すぐに仕事します」 総司令部のときとは違い、執務室に机を持った上田がバタバタと紙の束を整理し始めた。 「ですが、中尉、それならこの小包どうすればいいんですか?」 「開ければいいじゃないですか」 「何が出てくるか分かりませんよ」 「空けないと軍医が仕掛けたトラップが発動…」 ビリビリと小包にふたをしていたガムテープを慌ててはがし始める。中尉も中身が気になるようで、大佐の机の前に立って小包を見ている。表には食品と書いてあったが果たして中身はなんだろうか。 「チョコレート…?」 「みたいですね」 一つ一つ銀紙に包まれた小さな塊が中にたくさん入っていた。銀紙にはチョコレートと書いてある。 「怪しげな錠剤を予想していたんですが…」 「もしかしたら前のクッキーと同じパターンかもしれませんね」 「………」 「上田伍長、一つ食べてみてはどうです?」 中尉が箱の中から一つ取り出して、上田の前につきつけた。上田はものすごい勢いで首を横に振る。 「今の会話聞いてたのに食べろってんですか!?」 「あくまで予想ですから」 「遠慮させていただきます!」 中尉に無理やり食べさせられたりしないように、上田は熱心に仕事にとりかかる。中尉は非常に不服そうだ。 「朝比奈大佐―。暇なので今から軽く練習……何してるんですか?」 佐伯少尉と市ノ瀬軍曹が執務室に入ると、『チョコレート』を持って上田が口を開く瞬間を狙っている中尉と、必死に口をふさいでいる上田、それらを見ながら小包を遠ざけている大佐がいた。 「ちょっと知り合いからチョコレートが届きまして…上田にもあげようと中尉が差し出してるんですよ…」 見ようによってはそう見えないこともないが必死さが違う。 「私ももらっていいですか?」 「え?…う……ん…」 目を泳がせている大佐のことは気にもせずに、少尉が『チョコレート』を手に取る。そして銀紙をむいて、口に入れる…。 「美味しいですね」 「美味しい!?本当ですか!?」 大佐が驚きの表情で少尉に聞いた。少尉は不思議そうな顔をしながらも頷く。 「美味しいといけないんですか?」 「いや…あの……非常に言いづらいんですが…送り主に問題がありまして…三浦軍医と言うんですが、別名が白衣の悪魔で、マッドサイエンティストなんですよ…」 「白衣の悪魔?」 「読んで字のごとき人物です」 中尉が諦めて上田の机の上に『チョコレート』を置いた。上田は『チョコレート』を静かに箱に戻す。 「ええ。だからもしかするとその『チョコレート』の中に何か新薬が入っている可能性があるんです」 「朝比奈大佐、これが入っていますが」 少尉が白衣の悪魔の餌食になったら一番怒りそうな人物が、冷静に箱の底に入っていた手紙を引っ張り出した。手紙を受け取って、文面を声に出して読む。 「やあ、朝比奈。久しぶりだね。元気かい?送ったチョコレートは総司令部の近くに新しく出来たお店のものでね、すごく美味しいんだ。斉刻司令部の皆で食べてくれ。そうそう、柳くんにもよろしく伝えておいてくれよ。それじゃあまた。何かあったら送るから。立科」 「……はい?」 中尉が素っ頓狂な声をあげる。時間差で上田もつっこみを入れた。 「准将かよ!なんで送り主、軍医になってんすか!!」 大佐がさらに続きを読んだ。 「p.s. 三浦軍医の名前を送り主の欄に書いたのは、ちょっとした冗談だよ。面白かったかな?」 大佐が無言で手紙を投げ捨てた。中尉はそれを拾い上げて丁寧にたたみ、自分の懐にしまう。上田はうんざりした顔で机に寝そべった。 「総司令部には面白い人がいるんですねぇ」 「いすぎです」 「大佐もその面白い人の枠に入ってますよ」 「………」 軍曹は准将が送ってきたチョコレートを口に含みながら誰にも聞こえない小さな声で呟いた。 「これで終わりなんでしょうか…」 それから数日後、再び小包が大佐宛に届いた。送り主は今度も『三浦仁美』。中身についての記述はない。 「また准将なんじゃないんですか?」 上田のその一言で大佐はビリビリと包装を破った。目隠しのようにかけられた紙をはがして、中身を改める前に少尉と軍曹が入ってくる。中尉も人数分のコーヒーを淹れて現れた。 「立科准将、今度は何を送ってきたんですかね?」 「さあ。今回はお茶の葉とかじゃないですか?前回食べ物だったので、次は飲み物という感じで」 「中尉ー、だったらコーヒーいらないんじゃないんすか?」 「その時は上田が全部責任もって飲んでください。一気飲みで」 「………」 「面白そうなので、お茶の葉だといいですね」 「そうですね、少尉殿」 「ちょっと待て、そこ!何が面白そうなんだ!」 上田のツッコミは皆に無視された。 「じゃあ、開けますよー」 「どうぞ」 最後の紙をビリッと破いて中から出てきた物は…。 「じょ、錠剤…?」 「うわぁ…」 大佐は慌てて中身を全部ぶちまけた。錠剤の入った大量の茶色の瓶と、丸い…。 「…軍曹の得意分野ですよね…?」 「爆弾ですね」 「この中身からすると今回の送り主は確実に…」 「間違いないでしょうね」 バサバサと箱を振ると最後にひらひらと手紙らしきものが落ちてきた。 「大佐、読んでください」 中尉が手紙を差し出すと、大佐がしぶしぶ文面を読み出す。 「お久しぶりね、朝比奈大佐。お元気でしょうか?今回送った薬は以前の筋肉増強集中力アップのA錠剤とB液の改良版で、もっと手軽に、飲みやすく、効果を上げたスペシャルA錠剤ですわ。ぜひお試しいただいて、効果や改良点を教えてくださいね。それと、一緒に送った爆弾ですけど、それは大佐宛ではなくて、市ノ瀬軍曹に渡していただけます?色々なバージョンを作ってみたので、その都度使い分けてみてくださいねともお伝えください。三浦」 大佐はとりあえず、箱の中に手紙を入れて、爆弾の類を全て軍曹に渡した。そして大量の錠剤も上田の机に乗せる。 「さあ、仕事仕事!皆さん、キリキリ働いてください!」 「錠剤押し付けんなよ…」 ありとあらゆる隠し場所に爆弾をしまいながら、軍曹が言った。 「今まで爆弾を送ってくれていたのは、その三浦軍医だったんですね」 「知らずに使ってたのか、市ノ瀬」 「ええ。便利なので特に気にもせずに」 中尉が自分の仕事に戻りながら呟いた。 「少しは気にしましょう」 少尉が手紙を取り上げた。 「朝比奈大佐、この手紙まだ続きがありますよ。読みますね。『p.s. 今度お休みが取れたのでそちらの斉刻地方に行きますわ。その時にお会いしましょうね、朝比奈大佐』との事ですが…」 大佐は追伸を聞いてすぐに灰色になった。哀愁が漂っている。 「…来る……来る…悪魔が………」 いっちゃってる大佐を指差して少尉が中尉に聞いた。 「朝比奈大佐どうします?」 「ほっときましょう」 ♪来〜る、きっと来る♪リングのテーマソングが頭の中を流れています。しょうがないですよね。だって軍医ですからどう来るのを防ごうとしても防げるはずがありません。 というか、今回は長い。犀雅国の中で最長。 軍医の爆弾の秘密は一応これで終わりかと。実はあの爆弾全部軍医産なんですよ…恐ろしい…。 さて、次回ですが、長編(?)に入ります。ノリとしては「犀雅国陸軍密偵作戦1〜6」ようなかんじでしょうか。長くなるのでまた何個かに分けてお届けいたします。大佐の身に何が起きるのか!そして今一番気になる軍医は!?真面目なようで、真面目じゃない方向でお届けいたします(笑)いつものことですけどね。 |