犀雅国陸軍軍事記録
第3話 「柳中尉!面白いものが!」 上田上等兵が手に紙を持って走ってきた。 「なんですか?騒々しい」 「こ、これ朝比奈大佐のら、ラブレターなんすよ」 中尉のほうに持っていた紙を差し出し息を切らせている。手に持った紙は古いのか黄ばんでいる。中尉は紙を受け取り読み上げた。 「愛しのアンジェリーナへ。昨日のレストランは美味しかったね。あのレストランで君と見た夕日は最高だった。昨日はそのまま別れてしまったけど、また今度君と食事に行きたい。今度こそ君のハートを射止めてみせるよ。朝比奈より」 しばし沈黙が流れる。 「これほんとに朝比奈大佐のラブレターなんすかね?朝比奈よりとは書いてあるけど内容が…」 「これは間違いなく大佐の字ですよ。内容が大佐っぽくないけど」 二人が話しているところへ大佐が通りかかった。 「大佐!」 中尉は大佐の額に銃口を当てた。注意の突然の行動に驚く上田上等兵と朝比奈大佐。 「中尉、何の真似ですか?私は上官ですよ。銃をおろしてください」 中尉は額に銃口を当てたまま、大佐の目を見て言った。 「大佐が持っている剣を渡してください。右胸の銃はいいですから」 大佐は引き金を惹かれては大変と腰に差してあった剣をおとなしく中尉に渡した。しかし中尉は剣を受け取って銃を当てたままだった。 「大佐、ズボンの裾に隠している短剣もです。ポケットに入っている投げるためのナイフはいいですから」 大佐、おとなしく短剣も渡す。中尉も銃を下ろした。 「…中尉よく私が持っている武器が全部分かりましたね」 「当たり前です。大佐に剣を持たせてはいけないと上からきつく言われているんですから」 今まで驚きであいた口がふさがらなかった上田上等兵が口を利いた。 「…今ので武器全部だったんですか?てか、何で大佐に剣を持たせてはいけないなんて上が言うんすか?」 「大佐に剣を持たせると人が変わるんです。剣豪として軍に入隊したはいいけれど敵を見たら切り刻まずにはいられない。喧嘩をすれば相手を瀕死にするまで切る。言わば今の上田上等兵の武器を素手でなく銃にした以上に凶悪で恐れられそのときについたあだ名が『斉刻の孤狼』。そんなんだから剣を取り上げられたんですが銃の腕がさっぱりだったということです」 「懐かしいですね『斉刻の孤狼』。二等兵以来呼ばれてませんよ。それ以来剣を触らせてもらえないんですけどね」 大佐が悲しそうに笑った。人のよさそうな大佐が剣を握るとどう変わるのだろうか? 「ところで大佐。何で禁止されている剣を持っていたんですか?」 「…白衣の悪魔対策です…」 部下二人で納得。『斉刻の孤狼』でも『白衣の悪魔』には勝てないのではと柳中尉は思っていた。 「朝比奈大佐!これは大佐のですか?」 上田上等兵がさっきの手紙を大佐に渡した。大佐は手紙を眺めて言った。 「懐かしいです。これは確かに私のです」 「アンジェリーナなんて恋人がいたんですか?」 「いやいないよ。これは剣術で私に挑戦した人に対する手紙ですね。一つ一つの単語に違う意味を当てはめてあるんですよ。訳しましょうか?」 上等兵が首を縦に振る。それを見て大佐が訳し始めた。 「憎き挑戦者へ。昨日の勝負は惜しかった。あの勝負で二人とも血を浴びる結果となったのは悔しい限りだ。昨日は結局引き分けとなってしまったがまた君と勝負したい。今度こそ君の心臓を止めてやる。朝比奈より」 どうしてあのラブレターがここまで恐怖の手紙になるんだろうか?そしてなぜアンジェリーナ? 「…これ渡したんですか?」 「いや渡してないよ。渡せなくなってしまったんだ」 「これもしかして大佐が剣を取り上げられる直前の現在も植物状態の挑戦者宛だったんですか…?」 「いや。それより前の人」 その人がどうなったのかは永遠の謎。果たして大佐は何人を半身不随や植物状態にしたのだろうか? |