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犀雅国陸軍軍事記録
第7話 犀雅国陸軍密偵作戦4


「一応紹介しておきますわ。これは私の夫の板垣です」
 これって私は物ですか…とか思いながらも意見したら軍医ににらまれそうなので受け流すことにした。
「私は板垣征一郎です。このたびはお招きいただきありがとうございます」
 こういう時は頭を下げたくなくても下げなければならないものだ。そう思って思いっきり頭を下げたら下げすぎてテーブルに額をしたたかぶつけた。マフィアのボスは苦笑し、軍医に白い目を向けられた。ほろ酔い気味なので勘弁してほしいです…。






 その頃中尉と上等兵は従業員になりすましことの一部始終を見ていた。
「朝比奈大佐ってホントは馬鹿なんでは…。本当に策士として大佐の地位まで上がったんですか?」
「…知りません。私はあの人が大佐の地位についてから補佐官になりましたから」
 そんなに短かったんだ…。もっと古くから補佐官やってるのかと思った。上田上等兵がそんなことを考えているとマフィアのボスに話しかけられた。
「おい。そこのキミ」
 辺りを見回して声をかけられたのが自分らしいと分かると上田は自分を指差して言う。
「俺ですか?」
「そう。ちょっとこちらの方に水を持ってきてくれないか?」
「…分かりました」
 水を持ってそっちに行くと後ろから柳中尉が付いて来た。大佐に水を渡すときに目を合わさないように気をつけていたが、ただの酔っ払いでも従業員になりすました上等兵には気がついた。(中尉に言わせれば上等兵は独特のにおいがするから)
「う……」
 上等兵の名前を呼びそうになった大佐は後ろから中尉に口をふさがれた。中尉はにっこりと笑って言う。
「お客様、どうしました?気分が優れないのですか?そうですね。顔色が悪いですものね。では向こうで休みましょう」
 中尉は引きずるようにして大佐を連れて行った。上等兵は急いで彼らを追いかけていった。
 ほとんど人が来ないところまで来ると中尉は大佐を放した。中尉の後には追いついた上等兵が立っている。
「何で中尉がここに…?上田は車で待っているはずでは…?」
「朝比奈大佐。そんなことは今どうでもいいです。後もう少しでスパイだということが分かってしまうところだったでしょう!!もう少し頭使ってください!」
「す、すみませんでした…」
 何で私が謝るんだ…?
「大佐だけでは心もとないということで私が影ながら手伝うことになりました。計画があるなら教えてください」
「計画というか…このパーティーでマフィアのボスと仲良くなって徐々に情報を引き出していこうかと…」
「どうでもいいですけど、こんなところでそんなこと話してていいんすか?」
 二人の会話に上田上等兵がずけずけと割り込んできた。そんな上等兵を一瞥して中尉が言い切った。
「大丈夫です。誰かに聞かれていても被害を受けるのは大佐だけですから」
 何のための手伝いなのだろうかと大佐は思った。そしてもし万が一のときは上田を代役に立てようとひそかに決めた。
「話を進めますが、このままいっても大佐ではマフィアのボスと打ち解けるのも無理なので、三浦一等軍医正の美貌でボスを落としてもらおうと思います」
「白衣の悪魔に?」
「中身が白衣の悪魔でも外から見たら女神ですから大丈夫です。夫役である大佐を引き離せば勝手に落ちてくれますよ。遠くから見てますか」






 その頃外は女神、中は白衣の悪魔はマフィアのボスを完全に落としていた。
「では、結婚していらっしゃらないの?とても男らしい方だから女性に人気がありそうですのに」
「あなたこそ、あんな人よりもっと上の人のほうがお似合いですよ。どうです?明日の夜お食事でも」
「考えておきますわ」ニコッ
 早っ!!もうマフィアのボス落としてる。でも既婚者と言うことになってるのに食事に誘われた返事が考えておくでいいんすか?
 上等兵がそのことを中尉に言おうと振り返ったら大佐と中尉二人して複雑な表情を浮かべていた。いったい二人とも何を考えているのか分からない。
 三人は裏から戻ってきて白衣の悪魔を遠目から見ていた。マフィアのボスが軍医に惚れたのは明白で周りに人がいなかったら片膝ついて三浦軍医にバラでも渡していそうなほどだった。でもそこはマフィアのボス、食事のことは冗談でも言ったかのように笑い飛ばして、エスコートするために肩に手をやった。しかし軍医は手を払いのけ、その手をひねり上げてしまった。
「この手は何をしようとしたのかしら?言うことをきかなくかったと言うのなら、丁度今私が軍で開発した万能薬を持っていましてよ。それがいやなら上に掛け合って裁判に持ち込んでもいいですわね」
「お前軍のスパイだな!?」
 マフィアのボスが声を荒げるとずっと控えていたらしいマフィアの人間が三浦一等軍医正、朝比奈大佐、柳中尉、上田上等兵を取り囲んでいた。他の客の半分はマフィアで半分はもうすでに逃げていたのだった。
「何で俺たちまで巻き込まれなきゃいけないんすか!!」
「お前らそこの板垣とか名乗っているやつの仲間なんだろう?じゃあお前らもスパイだ」
「理不尽ですね」
 そういうと中尉は二丁銃を取り出して撃った。上田に向かって…。
「何すんすか!!」
「だましていたのね。何ということ!私はマフィア側ですから!」
「違うだろ!」
 マフィアの皆さん総出でツッコミ。
「中尉!こんなときに裏切らないで下さい!後で上田をおもちゃにしてもいいですから!」
 俺かよ!!反射的にツッコミを入れそうになったが何とかこらえた上等兵であった。
「約束ですね?」
 柳中尉はマフィアを(さっき思いっきりツッコミを入れた人中心に)撃った。撃っても撃っても敵は減らず反撃してきた。
「すみません大佐。私だけじゃ手に負えません。大佐も戦ってください」
「上等兵は!?」
 上等兵は中尉の隣で素手で次々と敵を倒していた。基本的には腹部にパンチ。たまに手刀で敵を気絶させている。地味にやっているので全く目立たない。派手に撃ちまくっている中尉の隣だと余計目立たない。上等兵の手に銃はなく、中尉の二丁の銃の一つは上田上等兵からパクった物のようだ。
 三浦軍医は悪魔の微笑で敵を威嚇している。すでに数名戦線離脱。
「大佐!戦え!」
「…仕方がないですね。剣を抜いたら少し離れてください」
 大佐はビクトリアの柄に手を掛けた。







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